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東京高等裁判所 平成6年(ネ)3132号 判決

控訴人(被告) 株式会社早稲田経営学院 外一名

被控訴人(原告) 株式会社東京リーガルマインド

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人らは、被控訴人に対し、各自金六〇万五八七〇円及びこれに対する平成四年三月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人のそれぞれ負担とする。

三  この判決は、第一項1に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴人らの控訴の趣旨

一  原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、被控訴人が、控訴人らの出版販売等する別紙被告書籍目録(一)記載の書籍(以下「被告書籍(一)」という。)に掲載されている別紙被告表目録(1) ないし(8) 記載の表(以下、同目録(1) 記載の表を「被告表(1) 」といい、その他についても同様に表示する。)、及び、別紙被告書籍目録(二)記載の書籍(以下「被告書籍(二)」という。)に掲載されている被告表(1) ないし(4) 、(6) ないし(8) が、被控訴人の別紙原告書籍目録(一)、(二)記載の書籍(以下「原告書籍(一)」、「原告書籍(二)」という。)中の別紙原告表目録(1) ないし(8) 記載の表(以下、同目録(1) 記載の表を「原告表(1) 」といい、その他についても同様に表示する。)について有する著作権(複製権)及び著作者人格権を侵害しているとして、控訴人らに対し、著作権法一一五条の規定に基づく謝罪広告の掲載、著作権侵害による通常使用料相当の損害賠償金二万四二九〇円(その内訳は、被告書籍(一)について二万〇二一六円、被告書籍(二)について四〇七四円である。)、著作権及び著作者人格権侵害による信用毀損に対する損害賠償金二〇〇万円の内金九七万五七一〇円、右不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当の損害金一五〇万円の内金一〇〇万円の合計二〇〇万円の控訴人ら連帯しての支払いを求めたものである。

原判決は、被告表(5) ないし(8) が被控訴人の原告表(5) ないし(8) について有する著作権及び著作者人格権を侵害するものであることを理由として、控訴人らに対し、各自七一万一八五四円及びこれに対する平成四年三月一五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを命ずる限度で被控訴人の請求を認容し、その余の請求を棄却した。

これに対し、控訴人らより本件控訴の申立てがなされたものである。

二  基礎となる事実

1(一)  被控訴人は、宅地建物取引主任者資格試験(宅建試験)を含む国家試験の受験指導の企画、制作、提供、講義、出版等を業とする会社である。(甲第八号証の一、原審における被控訴人代表者(当時)の供述、弁論の全趣旨)

(二)  控訴人株式会社早稲田経営学院(以下「控訴人学院」という。)は、被控訴人同様に国家試験の受験指導等を業とする会社であり、控訴人株式会社早稲田経営出版(以下「控訴人出版」という。)は、控訴人学院の出版部門を担当する控訴人学院の子会社である。(争いがない。)

2(一)  被控訴人は、昭和六三年六月二五日までに、「出る順宅建(下)宅建業法 法令上の制限 その他」との題号の書籍(第一版)を出版し、その後、毎年これに改訂を加え、平成二年三月一〇日、原告表(1) ないし(8) を掲載した原告書籍(一)を出版した。(争いのない事実、甲第七号証の一ないし二二)

(二)  原告書籍(一)は、被控訴人の開催する宅建試験の受験指導のための講座の常勤及びアルバイトの講師により、被控訴人の企画に基づき、すなわち被控訴人の発意の下に作成し、被控訴人名義で公表されたものである。(甲第八号証の一、原審における被控訴人代表者(当時)の供述)

(三)  被控訴人は、平成二年九月三〇日頃以来原告表(1) 、(2) 、(4) 、(6) を掲載した原告書籍(二)を出版した。(争いがない。)

3(一)  控訴人学院は、平成三年六月二〇日までに、被告表(1) ないし(8) を掲載した被告書籍(一)を作成し、控訴人出版は同日以来これを出版し、控訴人学院は、これを定価二八〇〇円で販売した。(争いがない。)

また、控訴人学院は、同年秋までに、被告表(1) ないし(4) 、(6) ないし(8) を掲載した被告書籍(二)を作成し、控訴人出版は同年秋頃これを出版し、控訴人学院は、これを同控訴人の宅建試験講座の受講者らに無償で配付した。(争いがない。)

但し、被告書籍(二)においては、被告表(1) ないし(4) 、(6) ないし(8) の各表毎に二箇所ないし四箇所の語句が空欄とされてアルファベットの符号が付されて空欄穴埋めの問題の形式とされ、同じ頁の下部に〈解答〉として、アルファベット符号の空欄に入るべき語句が示されている。(甲第四号証の一ないし一〇)

(二)  被告書籍(一)の出版部数は少なくとも三〇〇〇部、被告書籍(二)のそれは一〇〇〇部である。(争いがない。)

第三争点及びこれに対する当事者の主張

(原判決に対して被控訴人から不服の申立てがなく、したがって、当審においては、被控訴人が原告表(5) ないし(8) について有する著作権及び著作者人格権が侵害されたことを理由として認容された前記請求部分の当否のみが審理の対象となっているので、その判断に必要な限度で争点関係の摘示をすることとする。但し、損害についての主張は、原告表(1) ないし(8) の著作権及び著作者人格権侵害を前提とするものに従い摘示する。)

一  原告表(5) ないし(8) は著作物と認められるか。

1  原告表(5) について

(一) 被控訴人の主張

被控訴人は、建ぺい率の計算方法を説明するため原告表(5) の図を作成した。

建ぺい率については、建築基準法五三条一項及び同法施行令二条一項二号に規定があり、通常建物の一階部分の面積が敷地面積の何割を占めているかの割合が建ぺい率であると考えてよい。但し、以下の点に注意する必要がある。

〈1〉 上の階が下の階よりせり出している場合には、そのせり出している部分も建築面積に含めて計算する。

〈2〉 バルコニー、ひさし、軒等が一m以上せり出している場合には、その先端から水平方向で一mの部分を除く残りの部分を計算に入れる。

〈3〉 同一敷地内に複数の建物があれば、それぞれの建築面積を合算する。

被控訴人は、右注意点のうちわかりにくい〈1〉及び〈2〉について容易に理解できるような例を工夫して、二階部分が一階よりせり出し、かつひさしを有する建物を描き、さらに絵について親しみがもてるようにするため、窓、木等を配置して原告表(5) を作成したものである。

したがって、同図が被控訴人の精神的労苦の所産として著作権法上の保護を受けるべきことは明白である。

(二) 控訴人らの主張

(1)  建ぺい率計算の基礎となる建築面積について規定している建築基準法施行令二条一項二号の内容を図示しようとすれば、建物の接地している柱あるいは壁からはみ出す空中の部分を図示して、空中部分の端から一m以内の部分を建ぺい率計算の基礎とすることは、誰でも考えることである。原告表(5) は、右条文が規定する右のような内容を図示したものにすぎない。そして、原告表(5) の条文解説としての意味はこれに尽きるのであり、窓の数や屋根の形、建物の影の表示の仕方等は、図の持つ意味とは無関係である。

以上のとおり、原告表(5) は右条文の内容を単純に図示したものにすぎず、著作物として保護される創作性を有するものではない。

(2)  原告表(5) は、昭和五二年四月二〇日株式会社オーム社発行の「絵とき建築関係法規」に記載されている「図2 建築面積の算定方法(令2条2号)」と題する二個の図(乙第一〇号証の二)の合体にすぎない。

したがって、原告表(5) は右先行出版物記載の図を模倣、改変したものであり、被控訴人が著作権を取得することはありえない。

2  原告表(6) について

(一) 被控訴人の主張

原告表(6) は、建築基準法六九条ないし七五条に規定された建築協定に関する事項を内容的に分析し、これを適用区域、協定の主体、協定の内容、手続、協定の効力、協定の変更、協定の廃止、一人協定の項目に分類し、自ら工夫して簡潔にそれぞれ要点を列挙し、一つの表にまとめたものである。

このように数条にまたがる条文に示されたところを検討し、独自に項目を立て、かつその説明を簡潔にまとめる行為はまさに精神的労苦の所産であり、同表が著作権法上の保護を受けることは明らかである。

(二) 控訴人らの主張

(1)  原告表(6) は、八個の項目分けをしているが、このような分類は建築基準法第四章の条文配列を基準とするものであって、特に目新しいものではなく、創作性が認められるものではない。すなわち、建築協定であるから、主体と客体があるのは当然であって、協定の主体という項目と協定の客体の土地=適用区域という区分をおくことは当然の発想にすぎない。また、協定の中身として、協定の内容、手続、協定の効力に分類することも特段目新しいものではない。そして、一旦できた協定の変化として、変更、廃止の二項目をおくのも当然のことにすぎない。一人協定については、「協定」という概念からすれば特異なケースであるため、受験対策として一項目設けて注意を喚起するというのも当然で、創作性を認めるべきほどの工夫のある項目設定とは評価できない。

また、八個の項目のそれぞれの内容も特に創作性がみられるほどのものはない。すなわち、適用区域は同法六九条の内容を記載したものである。適用区域=協定の客体の土地という点から同条の内容を要約すると、「市町村の条例がある区域で締結可能」という内容となる。原告表(6) の適用区域の記載内容も同様の記載にすぎず、「全国どの地域でも可能」といういわば当然のことを付け加えているからといって、創作性が認められるものではない。協定の主体の記載も同法六九条の表現をそのまま使っているにすぎない。借地権者の部分に「地主の承諾不要」という記載があるが、同法七〇条二項の記載を要約したものである。確かに、本項目内に地主の承諾の要否を記載することは読者にとって判りやすいが、借地権者の行為において地主の承諾の要否は一般的に問題になりうることであり、それを記載することが創作性を認めうるほどの工夫とは評価できない。協定の内容についての記載は、ほとんど同法六九条の条文そのままのものである。手続についての記載も、同法六九条、七〇条、七三条から当然わかることをまとめて記述したものにすぎない。協定の効力についての記載は、同法七五条に従い、公告の日以降の効力について記述しただけのものである。協定の変更、協定の廃止についての記載は、条文の内容をそのまま簡略にしたものにすぎず、申請、認可、公告を並べて線でつなげたのは定型的な簡略化の域をでず、創作性を認めるほどの工夫ではない。一人協定に関する記載は同法七六条の三第一項の内容を、欄外注は同条四項の内容をそれぞれ記述したものにすぎない。

(2)  原告表(6) は、昭和六三年二月一二日東京法経学院出版発行の「63年版 宅地建物取引主任合格ノート」一九四頁の「4 建築協定制度」の記載(乙第六号証の五)、及び昭和六三年一月一四日株式会社住宅新報社発行の「63年版 図でみる法令上の制限」八八頁の「8 建築協定」の記載(乙第一一号証の四)と同じものである。乙第六号証の五記載のものとの対比では、原告表(6) は、協定の変更という項目を独立させている点が形式的に異なるだけである。乙第一一号証の四記載のものとの対比では、原告表(6) は、協定の内容、協定の変更、協定の廃止という項目を設けているが、特に本質的な差異とはなっていない。

したがって、原告表(6) は右先行出版物を模倣、改変したものであり、被控訴人が著作権を取得することはありえない。

3  原告表(7) について

(一) 被控訴人の主張

原告表(7) は、国土利用計画法二七条の二に示された監視区域の指定手続について、時系列的に図表化したものである。被控訴人は、同法条について、「引用」によって意味するところの理解が容易でなく、かつ、具体的な指定手続の時系列が初学者にとって明確に理解することが困難であることを考慮して本表を作成したものである。

具体的には、右二七条の二により準用される規制区域の指定に関する同法一二条二項ないし五項及び一〇項の規定を検討し、監視区域の指定手続の流れを初学者がわかり易いように時系列的に並べかえ、かつブロックで表記し、その中に要点のみ簡潔に表示することとしたものである。

したがって、原告表(7) が被控訴人の著作物として著作権法上保護されることは明らかである。

(二) 控訴人らの主張

原告表(7) は、国土利用計画法二七条の二に規定された監視区域の指定手続を図表化したものであるが、同法二七条の二及び同条が準用する同法一二条に記載された手続を時系列に従って並べると、〈1〉(土地利用審査会、関係市町村長の意見聴取)、〈2〉(知事による区域、期間の決定)、〈3〉(公告)、〈4〉(公告による指定の効力発生)、〈5〉(内閣総理大臣への報告、関係市町村への通知、必要な措置)、〈6〉(調査)の順となる。これを図表化しようとすれば、右〈1〉ないし〈6〉の項目を一列にしか並べるしか方法がなく、誰が試みても同一図表にならざるをえない。すなわち、原告表(7) は条文そのものを簡略化して表現したにすぎず、表の内容に新規性、創造性が介入する余地はなく、著作物性がない。

4  原告表(8) について

(一) 被控訴人の主張

原告表(8) は、国土利用計画法二三条ないし二七条に規定されている土地に関する権利の移転等の届出手続の流れを図表化したものである。

この数条にわたって規定された手続を、簡潔に、かつ手続の時系列的な流れに沿って複雑なブロック図で示すことは、まさに精神的労苦を要するところであり、原告表(8) が被控訴人の著作物として著作権法上保護されるものであることは明白である。

(二) 控訴人らの主張

(1)  原告表(8) の基本的な整理の視点は時系列である。時系列に従って情報を整理すること自体は、一般的な整理方法である。まして、原告表(8) がもとにしている国土利用計画法の当該条文は、二三条から二六条までが届出から公表にいたるまで、基本的に時系列に従って配列されており、二七条が取引中止の場合の規定となっている。当該各条文の内容を整理すれば、時系列を軸とするのは当然のことであり、この点が特に創作性を有するとは考えられない。

原告表(8) は届出を二個のブロックに分けて記載しているが、この点に格別の意義はなく、創作性があるとはいえない。また、届出項目については、同法一五条一項の記載事項のなかから、予定価額と利用目的を選択して記述しているが、これらを選択して記載することが創作性を有するとはいえない。届出を受ければ、問題がある場合に勧告をし、問題がない場合は通知をするのは、条文の一義的な解釈によるものである。これに例外として、届出から六週間以内に通知も勧告もない場合を加えて三分法となるのは、法がその三つの場合について規定している以上、当然のことにすぎない。原告表(8) が上から二段目のブロックの下にこれら三つのブロックをおいているのは、特段の創作性を有するものではない。そして、通知があった場合と通知も勧告もない場合がそれぞれ契約可能であるのは、条文に記載があるとおりであり、原告表(8) がこれを単純にブロック化したところで、到底創作性があるとは思われない。勧告があった場合について、当事者が従う場合と従わない場合に分かれるのは当然である。従わない場合の氏名及び勧告内容の公表は条文(同法二六条)の記載そのままであり、要約の仕方に特別の工夫はない。従った場合の「必要に応じ、知事が買主を斡旋する」という記載は、同法二七条の要約の仕方としてはやや特徴があるが、基本的には条文の内容であり、創造性があるとまではいえない。

(2)  原告表(8) は、昭和六〇年三月二日東京法経学院発行の「早受かり宅地建物取引主任」二七〇頁記載の「図42 土地に関する権利の移転等の届出」と題する図(乙第九号証の五)と同じものである。

したがって、原告表(8) は先行出版物記載の図を模倣、改変したものであり、被控訴人が著作権を取得することはありえない。

二  被告表(5) ないし(8) は原告表(5) ないし(8) を複製したものか。氏名表示権、同一性保持権の侵害はあるか。

(被控訴人の主張)

1 被告表(5) は、木が示されていないこと等を除き、原告表(5) と全く同じ図である。特に、左下の必要性の全くない長方形まで同様に示されている。

被告表(6) と原告表(6) は、原告表(6) には協定の主体の欄に「(臨時設備・一時使用を除く)」との記載が存する点を除くと、一字一句同一である。

被告表(7) は、原告表(7) とほとんど同一である。

被告表(8) は、原告表(8) と文言に微細な差異は存するが、図表の構成等が全く同一である。

2 右のとおり、被告表(5) ないし(8) は、これに対応する原告表(5) ないし(8) とほとんど同一であり、しかもこれらに依拠して作成されたものであるから、右被告各表は、これに対応する右原告各表を複製したものである。

被告表(5) ないし(8) は、原告表(5) ないし(8) を一部改変したものであり、しかも著作者として被控訴人の名義が表示されていないから、被控訴人が右原告各表について有する同一性保持権、氏名表示権を侵害するものである。

三  控訴人らの行為による被控訴人の損害

1  被控訴人の主張

(一) 前記のとおり、被告表(5) ないし(8) は、それぞれ原告表(5) ないし(8) の複製物である。控訴人らは、故意又は過失により、共同して、右原告各表について被控訴人が有する著作権(複製権)を侵害した。

(二)(1)  控訴人らは、被告書籍(一)を一部二八〇〇円の価額で合計五〇〇〇部出版、販売したものであるが、被控訴人が、控訴人らによる被告表(1) ないし(8) の被告書籍(一)における使用につき通常受けるべき使用料の額は、控訴人らによる同書籍の総販売額の一〇%に同書籍の総頁数に対する同各表の掲載されている割合を乗じた金額で計算できるから、被告書籍(一)の発行による著作権侵害行為により被控訴人が被った損害は、次のとおり二万〇二一六円である。

2800(円/部)×5000(部)×0.1×8(頁)/554(頁)= 20216円

(2)  控訴人らは、被告書籍(二)を一〇〇〇部発行し、無償で配付したが、右を前提として損害額を計算すると、被控訴人が控訴人らによる被告表(1) ないし(4) 、(6) ないし(8) の被告書籍(二)における使用につき通常受けるべき使用料の額は、被告書籍(二)が有償で頒布されていないため、原告書籍(二)の定価に一〇%を乗じた金額に、原告書籍(二)の総頁数に対する原告各表(被告書籍(二)において被告各表として複製掲載された被控訴人著作物)の割合及び被告書籍(二)の配付部数を順次乗じた金額で計算すると、被告書籍(二)の発行による著作権侵害行為により被控訴人が被った損害は、次のとおり四〇七四円である。

2800(円/部)×0.1×7(頁)/481(頁)×1000(部)= 4074円

(三) 著作者人格権侵害、信用毀損等による損害

被告書籍(一)及び(二)においては、被告表(1) ないし(8) が被控訴人の著作物であることを明示しておらず、また、原告表(1) ないし(8) の本質的でない部分を勝手に変更しており、被控訴人が右原告各表について有する著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害している。

被控訴人は、正確であるべき法律に係わる受験講座を営業としながら、原告各書籍及び被告各書籍の内容を知った複数の得意先企業等から、どちらが真の著作者であるかといった精神的に耐えがたい疑問を投げかけられたことがあり、また、原告各書籍と被告各書籍を対比して確認する機会を有した読者、利用者及びこれらの者から風評を伝え聞いた被控訴人の顧客層等から、原告各書籍が独自の分析により読者のために分かり易く解説する工夫をしたものではないと、そのオリジナル性、更には被控訴人の基本的な経営方針にまで疑問を抱かれたことがあり、そのため被控訴人の企業としての信用を著しく毀損された。

右信用毀損が著しいものであることは、以上のような著作権及び著作者人格権を侵害する被告各書籍が控訴人学院による被控訴人の顧客に対する売り込み行為に不当に利用された結果、被控訴人が、合計八社、被控訴人が講座を担当した最後の年度の売上高合計において八四九〇万円に昇る従来の顧客を控訴人学院に奪われ、このことによる被控訴人の利益の減少が、利益率を三〇%としても合計二五四七万円に及ぶものであることからみても明らかである。

以上のような控訴人らの著作権及び著作者人格権侵害行為の態様、及びその結果被控訴人に生じた重大な信用毀損を考慮すれば、控訴人らの右不法行為と相当因果関係を有する損害は二〇〇万円を下ることはない。

以上によれば、被控訴人は、控訴人らに対し、前記著作者人格権侵害、信用毀損による損害金として少なくとも二〇〇万円の連帯支払いを求める権利を有しているが、本訴においては、右損害金の内金九七万五七一〇円を請求する。

(四) 弁護士費用相当の損害

被控訴人は、控訴人らに対し、前記不法行為について、本件訴訟を提起せざるを得なかったが、本件訴訟は、事案の内容、性格が複雑かつ困難であり、その提起、追行に特殊の知識を要するものであるから、弁護士にこれを依頼せざるをえず、被控訴人は、被控訴人訴訟代理人らに対し、本件訴訟の追行を依頼し、右弁護士費用として、少なくとも一五〇万円を支払うことを約し、平成四年三月三一日、同訴訟代理人らに対し、右金員を支払った。

右金銭は、右不法行為と相当因果関係を有する損害であるから、控訴人らは、被控訴人に対し、右同額の損害を賠償する義務がある。被控訴人は、控訴人らに対し、本訴において、右一五〇万円の内金一〇〇万円を請求する。

2  控訴人らの主張

控訴人らの行為を違法行為と仮定しても、被控訴人の主張する損害及び因果関係は、控訴人らの損害賠償責任の根拠とはなりえない。

すなわち、企業間における競争では、同一の相手方に売り込みが重複するのは通常である。そして、相手方は売り込む側の内容、担当者の人柄等の各種の要素を考慮して取引を決定するものであり、売り込む側は競争相手と自分との優劣を主張することは自由競争の範囲内で当然生ずることである。わが国の経済体制の下では、競争により得意先を奪われたことなどはそもそも法律上の「損害」と観念しうるものではなく、被控訴人の売上げ減自体と被告書籍の出版とは何ら関係ない。

第四当裁判所の判断

一  争点一(原告表(5) ないし(8) の著作物性)について

1  原告表(5) について

(一) 原告表(5) は、別紙対照表の原告表(5) のとおりであり、建築基準法五三条一項、同法施行令二条一項二号の規定によって定められる建ぺい率を算定するための建築物の建築面積の計算方法の説明図であって、次のとおり表現されているものである。(甲第七号証の七)

(1)  二階建ての建物の簡略な正面図を上段に、その平面図を下段に配している。

(2)  正面図には、二階建陸屋根の建物が表され、一階中央にひさしのある出入口が一個、その両側に一個ずつの窓が描かれ、二階部分には三個の窓が描かれている。二階部分の左端は一階部分よりせり出しており、そのせり出し部分の左側にバルコニー様のものが突出している。建物の屋上とバルコニー様のものの上の部分には柵が設けられており、バルコニー様のものの部分と出入口の部分は密度の濃い点描が施されている。建物の左方には、一本の樹木が描かれている。

(3)  平面図では、二階部分の左端のバルコニー様のものが突出している部分の投影図が、正面図の左側先端より右へ退いて表され、その差の寸法が一メートルと注記されており、また、ひさしの投影図が、点線で描かれた本来の先端部分の位置よりも上方へ退いて表され、その差の寸法が一メートルと注記されている。建物の投影図は全体的に密度の濃い点描が施され、中央より右斜め上部分が白抜きとなって、ここに横書きで「平面図」との記載がある。

建物の平面図の左下には、意味不明の小さな横長の長方形が記載され、その左側に、横書きで「敷地面積一〇〇〇m2建築面積五〇〇m2」との記載がある。

(二) 右認定の事実によれば、原告表(5) は、建ぺい率計算の基礎となる建築面積を算定するに当たって注意すべき建築基準法施行令二条一項二号本文の「建築物・・・の外壁又はこれに代わる柱の中心線(軒、ひさし、はね出し縁その他これらに類するもので当該中心線から水平距離一メートル以上突き出たものがある場合においては、その端から水平距離一メートル後退した線)で囲まれた部分の水平投影面積による。」との規定内容を視覚的に理解しやすいように具体例を持ち出して略図化したものであり、かつ、右規定とは直接関係のない窓や柵等が描かれていて、右規定内容を説明するためにそれなりに工夫されたものとして著作者の個性が表出されているものと認められ、したがって、著作権法で保護されるべき著作物と認めるのが相当である。

(三) 控訴人らは、原告表(5) は建築基準法施行令二条一項二号の内容を単純に図示したものにすぎず、著作物として保護される創作性を有するものではない旨主張するが、右説示したところに照らして採用できない。

また控訴人らは、原告表(5) は昭和五二年四月二〇日株式会社オーム社発行の「絵とき建築関係法規」に記載されている「図2 建築面積の算定方法(令2条2号)」と題する二個の図(乙第一〇号証の二)の合体にすぎず、右図を模倣、改変したものであるから、原告表(5) につき著作権を取得することはありえない旨主張する。

しかしながら、乙第一〇号証の二に記載されている二個の図と原告表(5) とを対比してみると、前者は、建築基準法施行令二条一項二号中の「(地階で地盤面上一メートル以下にある部分は除く)」との部分及び軒、ひさし等で一メートル以上突き出たものである場合を説明する図と、建築物自体の二階以上の部分がせり出している場合を説明する図とからなるのに対し、後者は一つの図であること、前者では地上三階、地下一階の建物と地上三階の建物が描かれているのに対し、後者では二階建ての建物が描かれていることなどの相違点があって、原告表(5) が右二個の図を単に合体したものとは認められず、控訴人らの右主張は理由がない。

2  原告表(6) について

(一) 原告表(6) は、別紙対照表の原告表(6) のとおりであり、建築基準法六九条ないし七七条に規定された建築協定に関する事項のうちから、適用区域、協定の主体、協定の内容、手続、協定の効力、協定の変更、協定の廃止、一人協定の項目に分類して、右各項目につき簡潔に要点を列挙し、一つの表にまとめたものであり、次のとおり表現されているものである。(甲第七号証の九、第九号証の六)

(1)  上辺左端付近に「公式39」との記載のある長方形の枠内にすべての記載が収められている。

(2)  この枠内には、まず「建築協定」との見出しがあり、その下に、建築基準法六九条ないし七七条に規定された建築協定に関する事項のうちから、適用区域、協定の主体、協定の内容、手続、協定の効力、協定の変更、協定の廃止、一人協定の項目に分類し、これらを横の罫線で区分し、また、各項目とその内容を縦の罫線で区分した一覧表が作成されている。

(3)  右一覧表の欄外には、同法七六条の三第四項の規定をやや簡略化して一人協定についての補注として記載している。

(4)  (a)「適用区域」の項目の右欄には、建築基準法六九条の規定を解釈した建築協定の適用されるべき区域を簡潔に記載している。(b)「協定の主体」の項目の右欄には、同条から協定の主体に関する部分を抽出し、法文に従って「土地の所有者等」や「借地権者」に含まれる者を分類し、これを図表化して記載し、「借地権者」の記載の下には、同条の地上権又は賃借権についての除外事由を要約したものをかっこ書きで記載している。また、「借地権者」の記載の右には、同法七〇条二項の規定に従い借地権の目的となっている土地については所有者の承諾が不要であるとの趣旨を簡潔な文言で記載している。(c)「協定の内容」の項目の右欄には、同法六九条中の協定の内容に関する部分を抽出し、法文の文言どおり記載している。(d)「手続」の項目の右欄には、同法七〇条一項、二項、同法七三条一項、二項に規定されている建築協定の認可手続の流れの要旨を簡潔な文言で記載している。(e)「協定の効力」の項目の右欄には、同法七五条に規定されている建築協定の効力について、同条の法文の要点をほぼ文言どおりに記載している。(f)「協定の変更」の項目の右欄には、同法七四条二項に規定されている建築協定の変更の手続について、同項が準用する同法七〇条ないし七三条の規定による変更手続の流れの要旨を簡潔な文言で記載している。(g)「協定の廃止」の項目の右欄には、同法七六条に規定されている建築協定の廃止の手続の流れの要旨を簡潔な文言で記載している。(h)「一人協定」の項目の右欄には、同法七六条の三第一項の規定を平易な文言に変えて記載している。

(二) 建築基準法「第四章 建築協定」には、建築協定の目的(六九条)、建築協定の認可の申請(七〇条)、申請に係る建築協定の公告(七一条)、公開による聴問(七二条)、建築協定の認可(七三条)、建築協定の変更(七四条、七四条の二)、建築協定の効力(七五条)、建築協定の認可等の公告のあった日以後建築協定に加わる手続等(七五条の二)、建築協定の廃止(七六条)、土地の共有者等の取扱い(七六条の二)、建築協定の設定の特則(七六条の三)、建築物の借主の地位(七七条)につき詳細に規定されているところ、前記認定の事実によれば、原告表(6) は、これらの規定のうちから、宅建試験の受験対策のために必要な事項を選択し、かつ、条文に明示されていない項目をも含めた項目に分類、整理して、各項目の内容につき簡潔な文言で記載し、一覧表にまとめたものであって、全体として創作性が認められ、著作権法で保護されるべき著作物と認めるのが相当である。

(三) 控訴人らは、原告表(6) における項目の分類は建築基準法第四章の条文配列を基準とするものであって特に目新しいものではなく、創作性が認められるものではないし、八個の項目のそれぞれの内容も条文そのままのもの、あるいは要約した程度のものであって、創作性があるとはいえない旨主張する。

前記認定のとおり、原告表(6) の八個の項目中には、法文の文言どおり、あるいは法文の要点をほぼ文言どおり記載したものがあり、これら各項目の記載を個々にみる限り、それ自体に著作物性があるとは必ずしも認め難いが、原告表(6) においては、建築基準法六九条ないし七七条に規定されている事項のうちから、受験対策という特定の目的に必要な事項を選択し、かつ、条文に明示されていない項目をも含めた項目に分類、整理したうえ、各項目の内容につき簡潔な文言で記載して、一覧表にまとめたものであるから、原告表(6) は全体として、著作者の個性が表出されているものとして創作性を有するものと認めるのが相当であって、控訴人らの右主張は理由がない。

また控訴人らは、原告表(6) は、昭和六三年二月一二日東京法経学院出版発行の「63年版 宅地建物取引主任合格ノート」一九四頁の「4 建築協定制度」の記載(乙第六号証の五)、及び昭和六三年一月一四日株式会社住宅新報社発行の「63年版 図でみる法令上の制限」八八頁の「8 建築協定」の記載(乙第一一号証の四)を模倣、改変したものであるから、被控訴人が原告表(6) につき著作権を取得することはありえない旨主張する。

しかしながら、乙第六号証の五記載のものは、「建築協定制度」という表題のもとに、「(1)  市町村は、その区域の一部について、建築協定を締結することができる旨を、条例で定めることができる。」と記載されているほか、(2) 建築協定、(3) 土地所有者等、(4) 申請と認可、(5) 協定の効力、(6) 協定の廃止、(7) 特則という項目に分類し、その内容について簡単に記載しているものであって、原告表(6) とは取り上げている事項が一致しないばかりか、その項目の分類の仕方も相違している。また、乙第一一号証の四記載のものは、「建築協定」という表題のもとに、「どこで締結できるか」、「誰が締結できるか」、「手続」、「土地の所有者等の同意」、「効力」、「1人協定」という項目を設定し、これらの内容について簡単に記載しているものであって、原告表(6) とは取り上げている事項、分類の項目が相違している。

したがって、控訴人らの右主張は採用できない。

3  原告表(7) について

(一) 原告表(7) は、別紙対照表の原告表(7) のとおりであり、国土利用計画法二七条の二に規定された監視区域の指定手続等を六個のブロックにまとめ、これを時系列的に上から下へ並べているもので、各ブロックの記載内容は次のとおりである。(甲第七号証の一〇)

(1)  国土利用計画法二七条の二第二項には、「都道府県知事は、監視区域を指定しようとする場合には、あらかじめ、土地利用審査会及び関係市町村長の意見を聴かなければならない。」と規定されているところ、第一ブロックには右規定が要約して記載されている。

(2)  同法二七条の二第一項には、「都道府県知事は、・・・期間を定めて、監視区域として指定することができる。」と規定され、同条三項によって準用される同法一二条二項には、「規制区域の指定の期間は、次項の規定による公告があった日から起算して五年以内で定めるものとする。」と、同条一一項には、「都道府県知事は、規制区域の指定期間が満了する場合において、前項の規定による調査の結果、指定の事由がなくなっていないと認めるときは、第一項の規定により規制区域の指定を行うものとする。」とそれぞれ規定されているところ、第二のブロックには右各規定の骨子が簡潔な文言でまとめて記載されている。

(3)  同法二七条の二第三項によって準用される同法一二条三項には、「都道府県知事は、規制区域を指定する場合には、その旨並びにその区域及び期間を公告しなければならない。」と規定されているところ、第三のブロックには右規定を要約して記載されている。

(4)  同法二七条の二第三項によって準用される同法一二条四項には、「規制区域の指定は、前項の規定による公告によってその効力を生ずる。」と規定されているところ、第四のブロックには右規定が要約して記載されている。

(5)  同法二七条の二第三項によって準用される同法一二条五項には、「都道府県知事は、第三項の規定による公告をしたときは、速やかに、指定された区域及び期間その他総理府令で定める事項を内閣総理大臣に報告し、かつ、関係市町村長に通知するとともに、当該事項を周知させるため必要な措置を講じなければならない。」と規定されているところ、第五のブロックには右規定が要約して記載されている。

(6)  同法二七条の二第三項によって準用される同法一二条一〇項には、「都道府県知事は、規制区域を指定した場合には、当該区域を含む周辺の地域における地価の動向、土地取引の状況等を常時は握するため、これらに関する調査を行わなければならない。」と、同法二七条の五には、「都道府県知事は、第二七条の二第三項において準用する第一二条第十項の規定による調査を行うため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、監視区域に所在する土地について土地売買等の契約を締結した者(略)に対し、当該土地売買等の契約及び当該契約に係る土地の利用について報告を求めることができる。」とそれぞれ規定されているところ、第六のブロックには右各規定が要約して記載されている。

(二) 右認定の事実によれば、原告表(7) は、国土利用計画法二七条の二、及び同条三項により準用される同法一二条二項ないし五項、一〇項、一一項に規定された監視区域の指定手続及び指定後の調査、同法二七条の五に規定された報告の徴収について、条文に従い、手続の流れに沿って整理し、各規定の内容を要約して記載したものをブロック化して配列したものにすぎず、創意工夫がこらされたものとして著作者の個性が表出されているとは認め難く、著作権法により保護される著作物と認めることはできない。

(三) 被控訴人は、原告表(7) が著作権法上保護される著作物であることは明らかである旨主張するが、右説示したところに照らして採用することができない。

4  原告表(8) について

(一) 原告表(8) は、別紙対照表の原告表(8) のとおりであり、国土利用計画法二三条ないし二七条に規定されている土地に関する権利の移転等の届出手続の流れを時系列的に図表化したものであり、その表現形式は、右届出手続の要点をブロック化し、時系列的に関連するブロック間を実線で結び、上から下へ列記しているもので、その内容は次のとおりである。(甲第七号証の一一)

(1)  国土利用計画法二三条一項には、「土地売買等の契約を締結しようとする場合には、当事者は、第一五条第一項各号に掲げる事項を、総理府令で定めるところにより、当該土地が所在する市町村の長を経由して、都道府県知事に届け出なければならない。」と規定されているが、最上段のブロックには、右一五条一項各号所定の事項中、被控訴人が重要なものとして選択した「予定価額」と「利用目的」を具体的に明示して記載し、末尾に法条をかっこ書きで示している。

(2)  右ブロックに続くブロックでは、右二三条一項が規定する届出の方法を要約して記載し、末尾に適用法条をかっこ書きで示している。

(3)  右ブロックに続く手続の流れを、右届出に問題がある場合、問題がない場合、都道府県知事が何もしない場合の三つの流れに分けている。

(4)  右届出に問題がある場合については、同法二四条一項、二項に規定される都道府県知事の勧告措置につき、二つのブロックと枠外に、法文の骨子のみを簡潔な文言で記載し、末尾に適用法条をかっこ書きで示している。

また右に続く手続の流れを、都道府県知事の勧告に従わない場合と従う場合の二つの流れに分けて記載し、従わない場合の流れのブロックでは、同法二六条所定の都道府県知事のとりうる公表措置と契約の効力について、条文と解釈に基づき要約して記載し、適用法条をかっこ書きで示している。勧告に従う場合の流れのブロックでは、同法二七条所定の都道府県知事のとりうる措置につき、具体例を挙げて簡潔な文言で記載している。

(5)  前記届出に問題がない場合の流れのブロックでは、同法二四条三項所定の都道府県知事のなすべき通知について、法文の骨子をブロック内とブロックの枠外に分けて簡潔な文言で記載し、適用法条をかっこ書きで示している。

(6)  都道府県知事が何もしない場合の流れのブロックでは、同法二四条二項、三項、二三条三項の解釈から導き出される、都道府県知事の不作為により契約締結が可能となる要件を簡潔な文言で記載している。

(7)  右(5) の流れと(6) の流れを一つにまとめて、契約可能であることを簡潔な文言で記載し、適用法条をかっこ書きで示している。

(二) 右認定の事実によれば、原告表(8) は、国土利用計画法二三条ないし二七条、一五条に規定されている土地に関する権利の移転等の届出手続及びその後の措置について、必ずしも条文の枠にとらわれずに、また、条文に明示的に記載されていないものも含めて場合分けして整理し、更に、解釈に基づく契約の効力についても含めて要約記載し、ブロック化して配列したものであって、創作性が認められ、著作権法で保護されるべき著作物と認めるのが相当である。

(三) 控訴人らは、国土利用計画法二三条ないし二七条に規定されている内容を整理すれば、時系列を軸とするのは当然のことであって、原告表(8) が時系列的に図表化されたものである点に特に創作性があるとは考えられない旨、また、手続の流れについてのブロックの分け方や配列、各ブロックの表現等も条文の記載あるいは解釈から当然のものであって創作性はない旨主張する。

しかしながら、前記説示したところ、及び、国土利用計画法二三条ないし二七条に規定される事項について、どのように選択、分類し、どのような形式で配列するかということは多種多様であり、その点で原告表(8) は著作者の個性が表出されているものと認められることからして、控訴人らの右主張は採用できない。

また控訴人らは、原告表(8) は、昭和六〇年三月二日東京法経学院発行の「早受かり宅地建物取引主任」二七〇頁記載の「図42 土地に関する権利の移転等の届出」と題する図(乙第九号証の五)を模倣、改変したものであり、被控訴人が著作権を取得することはありえない旨主張するが、乙第九号証の五の「図42 土地に関する権利の移転等の届出」と題する図と原告表(8) とを対比すれば、両者の形式、表現が相違していることは明らかであるから、控訴人らの右主張は理由がない。

二  争点二(被告表(5) 、(6) 、(8)はそれぞれ原告表(5) 、(6) 、(8) を複製したものか。氏名表示権、同一性保持権の侵害があるか。)について

1  原告表(5) と被告表(5) との対比

(一) 被告表(5) は別紙対照表の被告表(5) のとおりである。

原告表(5) と被告表(5) とを対比すると、次のとおりの事実が認められる。

原告表(5) も被告表(5) も、建築基準法五三条一項、同法施行令二条一項二号の規定によって定められる建ぺい率を算定するための建築物の建築面積の計算方法の説明図である。

原告表(5) も被告表(5) も、二階建ての建物の簡略な正面図を上段に、その平面図を下段に配したものであり、その表現は、被告表(5) では樹木が描かれていない点、バルコニー様のものの部分と出入口の部分、建物の投影図部分に付された点描の密度がやや粗である点、建物の投影図中に「平面図」の文字がない点、平面図の左下に敷地面積等の文字のない点を除けば、建物の形態、窓の数、形態、位置、説明のための補助線の引き方や注記、平面図の左下の意味不明の小さな横長の長方形が記載されている点まで共通している。

(二) 右(一)認定の事実によれば、被告表(5) は、原告表(5) と著作物としての同一性を損なわない程度にまで類似しているものと認められる。

2  原告表(6) と被告表(6) との対比

(一) 被告表(6) は別紙対照表の被告表(6) のとおりである。

原告表(6) と被告表(6) とを対比すると、次のとおりの事実が認められる。

原告表(6) も被告表(6) も、建築基準法六九条ないし七七条に規定された建築協定に関する事項を適用区域、協定の主体、協定の内容、手続、協定の効力、協定の変更、協定の廃止、一人協定の項目に分類して、右各項目につき簡潔に要点を列挙し、一つの表にまとめたものである点で共通している。

原告表(6) では、前記認定のとおり、上辺左端付近に「公式39」との記載のある長方形の枠内に、「建築協定」との見出しのもとにすべての記載が収められているのに対し、被告表(6) では、上辺左側に横長の小さい長方形を有し、右長方形の中に「要点・建築協定のまとめ」との記載のある大きな長方形の枠内にすべての記載が収められている。

一覧表の表現内容は、原告表(6) と被告表(6) はほぼ同一であり、わずかに、原告表(6) では、「協定の主体」の右欄中の「借地権者」の記載の下には、建築基準法六九条所定の地上権又は賃借権のうち除外される場合を要約して「(臨時設備・一時使用を除く)」と記載しているのに対し、被告表(6) ではこれがない点で相違するのみである。

一覧表の欄外の記載については、原告表(6) では「一人協定」の項目についての補注を記載しているのみであるのに対し、被告表(6) では、ほぼ同文の一人協定の項目についての補注のほかに、「協定の効力」の項目についての補注がある点で相違している。

(二) 右認定の事実によれば、原告表(6) と被告表(6) とは前記のような相違点はあるものの、その表現は著作物としての同一性を損なわない程度にまで類似しているものと認められる。

3  原告表(8) と被告表(8) との対比

(一) 被告表(8) は別紙対照表の被告表(8) のとおりである。

原告表(8) と被告表(8) とを対比すると、次のとおりの事実が認められる。

原告表(8) も被告表(8) も、国土利用計画法二三条ないし二七条に規定されている土地に関する権利の移転等の届出手続の流れを時系列的に図表化したものである点で共通している。

被告表(8) では、上辺左側に横長の小さい長方形を有し、右長方形の中に「要点・届出の手続のまとめ」との記載のある大きな長方形の枠内にすべての記載が収められているのに対し、原告表(8) ではこれがない点、被告表(8) では、時系列的に関連するブロック間を矢印で結んでいるのに対し、原告表(8) では、時系列的に関連するブロック間を実線で結んでいる点、原告表(8) では、ブロック中の記載に、適宜、適用法条を示しているのに対し、被告表(8) ではこれがない点で相違している。

他方、原告表(8) と被告表(8) は、一つのブロックの中にまとめる事項、手続の流れの分け方が共通である上、各ブロック内の記載の表現が同一又は著しく類似している。

(二) 右認定の事実によれば、原告表(8) と被告表(8) との類似の程度は、同じ国土利用計画法二三条ないし二七条の規定を図表化したものであることから当然に予想される類似性を遙かに超えて類似しているものと認められる。

4  訴外安達哲郎は、昭和六二年五、六月頃から平成二年一〇月までの間、被控訴人に、その開催する宅建試験の受験指導講座の講師として勤務し、原告書籍(一)の作成にも関わり、また右講座での講義に原告書籍(一)を講義の教材として使用していた。訴外大森啓司は、平成元年から平成二年一〇月までの間、被控訴人に、その開催する宅建試験の受験指導講座の講師として勤務し、原告書籍(一)を教材として使用していた。安達と大森は、被控訴人を平成二年一〇月に退職した後、翌一一月から控訴人学院に勤務し、控訴人学院の発意に基づき、その名で発行するものとして、平成二年一二月から翌年三月までの間に、被告表(1) ないし(8) を含む被告書籍(一)の原稿を共同で執筆したが、被告表(1) 、(2) を含む部分は安達が、被告表(3) ないし(8) を含む部分は大森が分担した。少なくとも安達は、被告書籍(一)の原稿を執筆するに際し、原告書籍(一)を参考にしたことがあった。被告書籍(二)は、控訴人らにおいて被告書籍(一)中の要点となる部分を抜き出して作成した。(乙第一四号証、原審証人安達哲郎の証言、弁論の全趣旨)

5  右1ないし3のとおり、被告表(5) は原告表(5) に、被告表(6) は原告表(6) に、被告表(8) は原告表(8) にそれぞれ極めて類似しているものであるところ、右4のとおり被告書籍(一)の執筆者である安達も大森も原告書籍(一)の作成に携わったり、講義の教材として使用して、原告書籍(一)の内容は十分把握しており、被告書籍(一)の執筆の際に原告書籍(一)を参考にしていたものであり、しかも、1認定のとおり、原告表(5) 中にある意味不明の長方形が被告表(5) にもあることに照らせば、被告表(5) 、(6) 、(8) は、それぞれ原告表(5) 、(6) 、(8) に依拠して、そのまま、あるいは一部改変して作成されたもので、原告表(5) 、(6) 、(8) の複製と認められるから、被告表(5) 、(6) 、(8) を含む被告書籍(一)、(二)を作成、出版することは、被控訴人の原告表(5) 、(6) 、(8) についての複製権の侵害に当たるものというべきである。

また、被告表(5) 、(6) 、(8) は、原告表(5) 、(6) 、(8) を一部改変したものであり、かつ著作者として被控訴人の名称が表示されていないから、被告書籍(一)、(二)を作成、出版することは被控訴人の同一性保持権、氏名表示権の侵害に当たるものというべきである。

三  争点三(控訴人らの行為による被控訴人の損害)

1  前記二4認定のとおり、控訴人学院は、平成二年一〇月に被控訴人を退職した安達及び大森に、退職の約二か月後の平成二年一二月から、原告書籍(一)と同様の宅建試験の受験者用のテキストである被告書籍(一)の執筆をさせていることに鑑みれば、控訴人学院は、安達及び大森が被控訴人に勤務中、宅建試験の受験指導に関与していた経歴を知ったうえ、被告書籍(一)の執筆をさせたものと推認される。

そうすると、控訴人学院は、右両名によって短期間に作成された被告書籍(一)の原稿が被控訴人の出版している同種の書籍の著作権を侵害していていないかどうか調査し、他人の著作権を侵害しないようにすべき義務があるのにこれを怠ったまま被告書籍(一)を販売し、また、その要点を抜き出した被告書籍(二)を無償配布した過失があるものと認められる。

控訴人出版は、控訴人学院と代表者を同じくし、営業所も同一場所にあり、かつ、業務においても密接な関係を有しているものである(弁論の全趣旨)から、控訴人学院の発意のもとにでき上がった被告書籍(一)、(二)の原稿を出版しようとする場合、控訴人学院と同様に、でき上がった被告書籍(一)、(二)の原稿が他人の出版している同種の書籍の著作権を侵害していないかどうか調査し、他人の著作権を侵害しないようにすべき義務があったものというべきところ、控訴人出版は、これを怠ったまま被告書籍(一)、(二)を出版したのであるから過失があるものと認められる。

右控訴人らの行為は、客観的に関連共同するものとして、共同不法行為に当たり、控訴人らは連帯して被控訴人の損害を賠償すべき責任を負う。

2  著作権侵害による損害

控訴人出版が被告書籍(一)を一部二八〇〇円で少なくとも三〇〇〇部発行したものであることは、当事者間に争いがない。

被控訴人は、控訴人出版が被告書籍(一)を五〇〇〇部発行した旨主張するが、右三〇〇〇部以上発行したことを認めるに足りる証拠はない。

控訴人学院が、被告表(6) 、(8) を掲載した被告書籍(二)一〇〇〇部を同控訴人の宅建試験講座の受講者らに無償で配布したことは、当事者間に争いがない。

被控訴人は、控訴人らの前記著作権侵害により、著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する損害を被ったものと認められるところ、被告表(5) 、(6) 、(8) の被告書籍(一)における使用につき通常受けるべき使用料は、少なくとも、同書籍の総販売額の一〇%に同書籍の総頁数(弁論の全趣旨により五五四頁と認める。)に対する右各表の掲載されている割合を乗じて得られる金額は存するものと認めるのが相当である。

しかして、被告書籍(一)の発行による著作権侵害行為により被控訴人が被った損害は、四五四八円〔2800(円/部)×3000(部)×0.1×3(頁)/554頁)〕となる。

次に、報告書籍(二)は無償で配布されているが、被告表(6) 、(8) の被告書籍(二)における使用につき通常受けるべき使用料の額についても、右と同様の手法により算出するのが相当であるところ、弁論の全趣旨によれば、同書籍の定価は一部八〇〇円、総頁数は一二一頁であると認められるから、同書籍の発行による著作権侵害行為により被控訴人が被った損害は、少なくとも、一三二二円〔800(円/部)×1000(部)×0.1×2(頁)/121(頁)〕となる。

したがって、著作権侵害による損害額は五八七〇円である。

3  著作者人格権侵害による損害

右1及び前記二5認定のとおり、控訴人らは、原告表(5) 、(6) 、(8) に一部改変を加えた被告表(5) 、(6) 、(8) を掲載した被告書籍(一)を出版、販売し、被告表(6) 、(8) を掲載した被告書籍(二)を出版、無償配布して、被控訴人の同一性保持権、氏名表示権を侵害したものであるところ、前記認定の控訴人らの著作権侵害行為の態様及び諸般の事情等を勘案すると、控訴人らの著作者人格権侵害による損害賠償額は三五万円と認めるのが相当である。

被控訴人は、控訴人らの行為によって著しい信用毀損を受けた旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

4  弁護士費用相当の損害

被控訴人が本訴の提起及び遂行のために弁護士である被控訴人代理人を選任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、審理の経緯、訴訟の結果その他諸般の事情を考慮すると、被控訴人に生じた弁護士費用のうち二五万円は控訴人らの著作権侵害の不法行為と相当因果関係のある損害として控訴人らに負担させるべきものと認めるのが相当である。

5  右2ないし4の損害額の合計は六〇万五八七〇円である。

四  結論

以上のとおりであって、被控訴人の本訴請求は、控訴人ら各自に対し六〇万五八七〇円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容すべきであり、その余は失当として棄却すべきである。

よって、原判決を右の趣旨で変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、八九条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤博 濱崎浩一 押切瞳)

別紙対照表のうち原告表(1) ないし(4) 及び被告表(1) ないし(4) 〈省略〉

原告表目録

原告書籍(一)及び(二)に示された左記表

(1)  原告書籍(一)の一四〇頁及び原告書籍(二)の三〇頁の公式35の1.「名簿登録事項と変更の届出が必要な事項」に示された表

(2)  原告書籍(一)の一四九頁及び原告書籍(二)の三四頁の公式41の1.「死亡等の届出21」に示された表

(3)  原告書籍(一)の二二六頁「1.都市計画の決定権者」に示された表

(4)  原告書籍(一)の二三六頁及び原告書籍(二)の五二頁の公式15に示された表 (5)  原告書籍(一)の二六九頁に示された図

(6)  原告書籍(一)の三〇五頁及び原告書籍(二)の七〇頁の公式39に示された表

(7)  原告書籍(一)の三一二頁に示された表

(8)  原告書籍(一)の三一三頁の届出の手続きの図表

被告表目録

被告書籍(一)及び(二)に示された左記表

(1)  被告書籍(一)の五六頁要点33及び被告書籍(二)の七頁要点15「宅建業者名簿への登載事項と変更の届出」に示された表

(2)  被告書籍(一)の八一及び八二頁要点49及び被告書籍(二)の一三頁要点30「死亡等の届出」に示された表

(3)  被告書籍(一)の二五七頁要点22及び被告書籍(二)の六一頁要点20「都市計画の決定権者(1) 」に示された表

(4)  被告書籍(一)の二六八頁要点27及び被告書籍(二)の六五頁要点25「許可の不要な開発行為」に示された表

(5)  被告書籍(一)の三三七頁2建ぺい率の計算方法で示された図

(6)  被告書籍(一)の三六四及び三六五頁要点53及び被告書籍(二)の七九頁要点50「建築協定のまとめ」に示された表

(7)  被告書籍(一)の三八二及び三八三頁要点55及び被告書籍(二)の八一頁要点52「監視区域の指定」に示された表

(8)  被告書籍(一)の三八八頁要点57及び被告書籍(二)の八三頁要点54「届出の手続きの総まとめ」に示された表

原告書籍目録

(一) 題号 「出る順宅建(下)宅建業法 法令上の制限 その他」第三版

発行日 一九九〇年三月一〇日

著者  株式会社東京リーガルマインド(総合研究所 宅建試験部)

発行所 株式会社東京リーガルマインド

(二) 題号 「出る順公式集II(宅建業法・法令上の制限)」

発行日 一九九〇年九月三〇日ころ

著者  株式会社東京リーガルマインド

発行所 株式会社東京リーガルマインド

被告書籍目録

(一) 題号 「宅建虎の巻(下)宅建業法・法令上の制限・税・その他」

発行日 平成三年六月二〇日

発行者 株式会社早稲田経営出版

(二) 題号 「宅建虎の子(下)宅建業法・法令上の制限・税・その他」

発行者 株式会社早稲田経営出版

別紙 対照表〈省略〉

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